それは突然だった。
10月中旬のある日。私はこたつを出すために居間の掃除をしていた。
当時、父と2人暮らしで、高齢の父はすっかり寒がりになり、少々早いが寒い日が本格的に来る前にこたつを出すことにしたのだ。
掃除機をかけ、大きなブラウン管テレビをつけたまま、その周辺を拭き掃除して、ふと気づくと全身がだるく重い。
急に何だろうと思いながらも、とにかく最後まで掃除してからちょっと横になろうかなとこたつを出し、壊れていないかと確かめるつもりで電源を入れた。
わん、と。何か圧迫感のある空気の塊のようなものが押し寄せてきた気がした。肺全体がチクチク痛みを訴えだす。
思わず、コタツのスイッチを切ると、すーっと体が楽になった。
この時の私の気持ちはと言うと、???という感じ。
なにこれ?・・・まさか?
また電源を入れる。
またチクチクチクチクと体が痛む。
まさか・・・コタツのせい?
そんな感じで始まりは突然かつ、ジミなものだった。
そして始まった途端に坂道を転がり落ちるように悪化していった。
こたつの次にはテレビが見られなくなった。離れて見ていても、テレビ画面から何かレーザー光線でも発射しているかのように全身、針で刺されるかのような痛みを感じる。
それから脳を貫くような痛みが時々走る。どうやら家の上空を飛行機が飛ぶたびに感じるようだ。
神奈川県には基地があるので、戦闘機が日にたくさん飛ぶ。戦闘機のときは貫くような痛みで、ヘリのときはしめつけるような痛みだった。
痛みだけでなくめまいも感じるようになり、横になっていても天地がぐるぐる回る。
夜も眠れなくなった。少しうとうとしても、痛みで起こされる。
こういう話をすると、必ず気のせいだろうと言う人がいる。
はっきり言わせてもらうが、電気だの電波だのに反応して痛みを感じるなどと言う話を1番最初に疑うのはとうの本人だ。
そういう病気をもともと知ってる人ならともかく、私は電磁波過敏症などと言う病気がこの世にあることも知らなかった。
気のせいか、気が触れたか、勘違いか、別のものに感じているのではナイのだろうかと疑った。
テレビをつけると体が痛いよ、こたつをつけてもやっぱり痛いよ、飛行機がクルのもわかるし、携帯電話も頭痛がするよ、わー、電磁波や電波に感じちゃってる病気になっちゃったんだー!なんて速攻思う人がいるかっ!ということ。
だって信じたくないでしょう。
他人よりまず、本人がそんなこと、そもそも信じたくない。
だからなんだか信じられない話をしているなあと思っても、あなたは痛くないのなら、痛いと言っている人の話をとりあえず信じてほしい。
科学者なら何でも疑ってかかるのははじめの1歩かもしれないけど、もしもあなたが目の前で信じられないこと話している人の家族や友達であるのなら。
とりあえず話を戻して。信じられないし信じたくない私が、それでも痛みの原因を確かめようとしてとった行動は、さすような痛みを感じたとたん家から飛び出すということだった。
昼間は戦闘機はそこそこ低空を飛んでいる。つまり近づいてくる音がする。
しかし夜は苦情が出ないように気を使っているのか、家の中にいると音が聞こえない程度の上空を飛んでゆく。
だから痛みを感じていても、多分飛行機が飛んでいるのね、と勝手に思っているだけで、本当に飛行機が飛んでいるかどうかは外にでなければ確かめられないのだ。
どうせ痛みでほとんど眠ることもできない。飛び出したとき高い確率で飛行機が飛んでいれば、確かに私は飛行機のレーダーの電波だか低周波音だか、なんだかよく分からないがとにかくナニカに反応していることだけは確かになるというわけだ。
テレビがそこにあるのははっきり見えるし、こたつだって存在から目をそむけようがない。私が何か精神病的な思い込みにより、家電製品に近づくと体調を崩している…という可能性はゼロでは無い。
でも飛行機は音さえ聞こえなければ、普通の人には、いるかいないかわからないはずのシロモノで、自分が本当に目に見えない何かに反応してるのかどうか確認できるとおもったのだ。
ま、突然エスパーになったという可能性もほんのちょびっとあるかもしれないけど。
私は一晩中、頭痛→飛び出す、空に飛行機の明かりを探す。を繰り返した。
この時少し驚いたのは、我が家の上空を思っていた以上の数の飛行機が飛んでいたことだ。
最近は以前より少し減った感じだが、この頃は昼も合わせると多い時で100回以上飛行機が飛んだ。
100機以上、でないのは、民間機と違って戦闘機の場合、いや、ヘリコプターなのかもしれないが行ったり来たりするのだ。
なんだかずーっと痛いなと思ったとき、外に出てみたらヘリコプターがちょっと行ってはまた戻りしていた。
結論から言うと、90パーセント以上の確率で飛行機が飛んでいた。夜は昼より却って、暗い中に小さな明かりを見つければいいので見つけやすいが、それでも雲などで見えないケースを考えれば、ほぼ100パーセント飛んでいたと言ってもいいくらいだ。
つまり私の体は電波だか何かに痛みを感じるようになってしまったわけで。
やっぱりそれは疑いようのない事実なわけで。
ショックで打ちのめされてしまった私のところに、電磁波過敏症という病気があるらしいよと情報を持ってきてくれたのは妹だった。
妹がネットで調べてくれた北里研究所病院にすぐ電話をしてみたけれど、予約が取れたのはなんと2ヶ月以上も先の年明け1月だった。